人間失格で読書会
実は、かなり勇気が必要だったのだ。
タイトルが「人間失格」なんだもの。
自ら、自分が人間でないだなどと、公表したい人がいるだろうか。
早く人間になりたい。
私は妖怪人間だ。
そんなことを大っぴらにして集まって、和気あいあいと感想などを語り合えるだろうか。
私が決めたことだったけれど、私の選書だったけれど、イベントページにUPしてからも
不安でいっぱいだった。
私が人間失格を読んだのは高校3年生の夏休みだった。
その前にも数冊、読書感想文用に本を読んだのだが、どうも気持ちがのらない。
残念なことに、私は心が動かないと全く筆が進まないタイプ。
「やばい。明後日には学校が始まる。」
そんな中、慌てて本屋さんに駆け込み、数時間で読み切り、その勢いで書き上げたのが私の人生最後の読書感想文。
「人間失格を読んで」だった。
2学期が始まったある日、現国の先生だった担任に職員室に呼ばれた。
開口一番、「お前、大丈夫なのか?」と。
私が書いた原稿用紙を出して先生は続けた。
「俺は、多感な時期の子どもたちに太宰を読ませるのはどうかと思っている。」
「自殺したいと思うようになっても困るから…。」
私は笑顔で先生のその心配を一蹴した。
でも、先生の心配も、そう間違いではなかったのだと今は思っている。
私が書いた感想文は、確かに先生が心配するレベルのものだった。
原稿用紙5枚は超えたであろう文章の中に、「私はこんなに人間失格だ。」ということを、一つ一つ事例をあげて書き上げた読書感想文だったから。
冒頭は、
「私は人間失格である。」だったと記憶している。
私がどれだけ道化を演じながら生きてきたか。
本音なんて言ったことはなかったこと。
いつも笑って、適当に答えを誤魔化して生きてきたこと。
親にも、友人にも、当時つきあっていた彼にも、本当の気持ちなんて言ったことがないこと。
そして、その闇にまみれた読書感想文は、ちょっとした賞をもらい、友人たちにも、彼にも読まれることになり。
「そんなこと思ってたの?」とザワザワされながら高3の秋は過ぎていった。
甘酸っぱいというには
ちょっと青すぎる思い出だから、ずっと、封印していた本。
触ることすらなく、見ることすらなく、存在すらなかったことにしていた本。
それを今回、読書会の課題図書に選ぶことにした。
今が、タイミングなのかと、そんな気もしていたから。
想いはあったけれど、誰も来てくれないんじゃかと思っていた読書会。
人間失格だなんて、今更、読んで私と語りあおうなどと思ってもらえるんだろうか。
やっぱり、選書ミスだったかな…。
今の自分の自信のなさと、中二病じみた高校3年生の私の思いがあいまって、ますますこれでよかったのか不安な気持ちの中で開催した読書会だった。
読書会当日
ありがたいことにお二人の方が参加して下さった。
恐る恐る、この読書会に参加してくれたきっかけを聞いた。
その答えは、聞いた私こそが一番驚くものだった。
何気なく、フェイスブックを見ていたら上がってきたのがこの読書会だったこと。
人間失格のタイトルを見て、まさに今読むべき本だと思ったこと。
今年、自分は人間失格だと気づいて、宣言したところだったこと。
私こそ、人間失格だと思ったから参加したのだということ。
その答えは、私が感じていたことそのままで。
私が語り合いたかったことのすべてだった。
自分の言葉で自分の気持ちを伝えたら、ちゃんと届くのだということ。
自分がどれだけ人間失格なのか、カミングアウトしようかと思ったら、一緒にカミングアウトしようとしてくれる人が現れたということ…。
自分の素直な言葉が届いたことにまず、一番喜びを感じていた。
そして、自分が人間失格だと語りにやってきてくれた人が、とてもすばらしい方だったこと。
すっかり仲良くなって、いろんな話ができる関係になれたこと。
とてもいい経験をさせてもらった。
人間失格な人って、なんて素敵なんだ!
人間失格バンザイ!
我こそは人間失格である。
そんなあなたは、とても素敵な人なのである。
大好きだ!
調子にのって、決めた。
次の課題図書は、カフカの変身にしようと思っている。
今度は、人間失格どころか、虫になってしまったあなたと語り合おうと目論んでいる。
自分が虫だと思っている、そこのあなたに届きますように。
強く強く願っている。
SALOON札幌の課題本読書会とは
本を通して、「あなたの」お話を聞く課題読書会です。
本はツールです。
どうして、その本を手にとったのか。
そこにもう一つのストーリーがあります。
その本を読んで、あなたはどう感じたのか。
本を読むことで、その本の世界は、あなたに何を見せたのか。
どんな風に心を動かしたのか。
そんなお話を、たくさんしていきたいと思っています。
お時間ある方いつでもご参加お待ちしております。
SALOON札幌店長 兼
読書倶楽部 ファシリテーターとくなが えみこ